特別展示:「樹木のくらし・一年の変化」
[ 2014年10月1日〜11月30日 ]

 2年前になりますが、私たち自然情報チームのメンバーは日頃の活動の集大成として、
「樹木の一年の営み」をテーマにして、2014年の秋に特別展示会を開催しようと話し合いました。
 チームの日頃の活動は、毎月第1火曜日の情報収集日の観察で目に付いた樹木、野草、虫など、その時々の状態を単発的に写真に撮り、 簡単な解説を付けて館内の展示ボードで紹介していますが、その中で

「樹木が季節の移り変わりに合わせて、1年の間にどのように変化するのか…」

を継続して観察し、その記録をまとめ「樹木のくらし・一年の変化」と題して展示することにしました。
 観察の対象とした樹木は、谷津干潟公園の周辺に植えられており、季節の変化がよく分かる落葉樹7種を選び、 それぞれの樹木をマイツリーとして1〜2名が担当しました。
 企画から観察、記録、パネルの作成まで2年あまりの活動を経て、 2014年10月1日から11月30日まで特別展示コーナーにおいて展示しましたが、その間、多数の皆さんのご来場があり、 熱心に観賞していただきました。
 このホームページでは、各樹木の展示パネルから、特にお伝えしたい内容を抜粋して紹介しています。



以下に樹木7種の取材チーム、各々を紹介します。

※樹木名をクリックすると、該当の樹木の展示紹介にジャンプします。
ネムノキ   オオシマザクラ   イチョウ   ニセアカシア   コナラ   イロハモミジ   エゴノキ  

ネムノキ
 
 ネムノキはマメ科の落葉高木、原産地は日本、南アジア。
春4月に芽吹きをはじめて、春には花を咲かせます。種子から育てて10年経たないと花が咲きません。 そのため、庭木で植えられることはほとんどありません。
 ネムノキの花はふわっとした花火のように綺麗です。根元が白く先端が淡紅色となるグラデーションが見事です。
 海外ではオシベの絹糸のような感じから「シルクツリー」とも呼ばれ人気も高く、街路樹としてよく利用されています。
 今回ここに展示したネムノキは干潟東側の秋津5号公園にあって、この木の1年を追って撮った写真です。
 
(担当:多田敬市)
ツボミ
 
ネムノキの大木
 

オオシマザクラ
 
 谷津干潟自然観察センター内の芝生広場近くにあるオオシマザクラの1年間を観察しました。
 “サクラ”といえば人々の関心は主に“お花見”、それも多くは華やかなソメイヨシノが対象になることが多いのですが、オオシマザクラの清楚な佇まいも捨てがたいものがあります。
 野生種のオオシマザクラは、古くから人々の生活に深く関わりを持ってきた有用な樹木であることに思いを新たにしました。
 例:防潮・防風林、街路樹・公園樹(塩害・亜硫酸ガスに強い)、薪炭材、 家具・建材、樺細工、版画の版木、桜餅の皮等
 サクラは栽培種が多いのですが、オオシマザクラはその親種として200種以上のサクラを生み出すことに貢献しています。因みに、ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの栽培種といわれています。
 
(担当:石川維美子・宮村美和子)
冬芽と葉痕 ツボミ
 
サクランボ
 
谷津干潟公園で見られる桜4種
 

イチョウ
 
 今回展示の7種の樹木を比べていちばんやりやすいと思ったのがイチョウで、私はいの一番でイチョウに手を挙げた。
 ところがいざ取材となるとそれは決して簡単ではなかった。まずオバナ、メバナが非常に見つけにくい。4月、葉といっしょに出てくるのだが同じ緑で小さくあっという間に銀杏になってしまう。1年目はイチョウの一年を見つめることで過ぎた。
 2年目ようやくメバナ、オバナの見当が付き生育の過程を追えるようになった。イチョウの周辺の取材は女性特有の細やかさで湯本さんが担当、乳イチョウや災害で焼け焦げながら今も生き続けるイチョウなども取材していただいた。またコンピューター画像ではイチョウの精子の役割の模式図を見事に作っていただいた。
 なお、イチョウは、雌雄が別の木です。(雌雄異株)
 
(担当:小林善行・湯本芳枝)
谷津干潟公園には雄木6本、
雌木4本のイチョウがある
麦粒のような形をした一つ一つが雄しべ(雄木)
 
雌花が上に向かって伸びている(雌木) 色付いてきた銀杏
 
受精までの模式図
 

ニセアカシア
 
 ニセアカシアの最大の特徴は、葉痕内部に冬芽が隠れていて(隠芽といいます)、葉痕の中央から新芽が出てくることです。通常の木は葉痕の上部から新芽が出ます。
 3月下旬に葉痕の中央を突き破って新芽が出てきて、4月中旬には芽は更に大きくなり、新芽は新しい枝となり、新しい葉を付けます。
 この春の変化を連続写真でお見せするのを第一の目的にしました。
 5月になるとたくさんの白い花をつけ、花の蜜を求めて様々な昆虫が飛来します。その花と昆虫をお見せするのが第二の目的です。
 苗を鉢植えにして展示しようと、数回採取して育てたのですが、すぐ枯れてしまい、移植になかなか適さない樹木だと痛感いたしました。
 ニセアカシアの木が意外と身近にたくさんあることに展示真近に気が付き、残念な思いをいたしました。アカシア酒を作るつもりが、花の時期に旅行していて、採取しそびれ、もし近所にあることに気がついていたら、なんとか出来たのではと悔いが残りました。
 世間一般にアカシアと呼ばれている木もニセアカシアのケースが多くあり、西田佐知子のヒット曲「アカシアの雨がやむとき」に歌われるアカシアや石原裕次郎の「赤いハンカチ」に歌われる「アカシアの 花の下で あの娘(こ)がそっと 瞼を拭いた 赤いハンカチよ」もニセアカシアと言われています。
 観察センターの駐車場南側の空き地に数10本のニセアカシアの林があり、ここを観察の拠点として写真撮影等を続けました。ここのニセアカシアは多くの花が咲きますが、実がほとんど付きません。
 秋津5号公園にネムノキの大木があり、同じマメ科の植物ですが、もっと実がついている気がします。なぜでしょうか、今後の課題です。
 この空き地は千葉県から習志野市が購入しますが、市では公園にする予定のようです。ニセアカシアの林が残り、鳥の餌となる実のなる木が多く植えられることを願っています。
 
(担当:阿久津斉・東鎮枝)
お猿の顔に似た葉痕 葉痕の中央から新芽が出る
 
新芽4月中旬
 
花にクマバチ 花にナミテントウ
 
観察センターの駐車場南側の空き地
 

コナラ
 
 谷津干潟公園のコナラは20数か所に植わっており、その本数は40本以上になる。
 この公園が出来てから20年以上になるから、樹齢は25年から30年にはなると思う。 私たちはこのコナラを約2年間にわたって、毎月3〜4回見回りながら観察してきた。冬芽の出始め、花芽・葉芽の芽ぶき、雄花・雌花の開花時期、落果や紅葉、落葉の時期がそれぞれの樹ごとに微妙にずれている。多くのドングリをつける樹とほとんどつけない樹があり、ドングリの形が微妙に違ったりする。同じ種であるが、よく観察してみるとそれぞれの樹に特徴があり、それぞれが自己主張しているようで興味深い。
 ところでコナラは風媒花であり、受粉に際しては昆虫の世話にはならないが、昆虫の幼虫や成虫はサクラやクヌギと並んでコナラが大好きである。チョウ目、コウチュウ目、カメムシ目などの仲間が若芽や若葉、ドングリ、樹液や樹幹などを様々に利用している。
 樹木に限らず、生きているものを一年間通して観察、記録するためには、まず観察者が健康であること、そして常に注意深く関心を持ち続けることが大切である。
 
(担当:早川瑞子・飯塚廣司)
冬芽(鱗芽) 冬芽から顔を出した雄花序と葉芽
 
伸び出した雄花序と葉芽 枝の先端に顔を出した雌花
 
雄花 雌花
 
花粉を出し始めた葯 雄花序の花糸についている葯
 
成長したドングリと新たな冬芽 熟し始めたドングリ
 
ナラハウラマルタマフシの虫こぶ 樹液に集まったハナムグリの仲間
 
葉を食べるスカシカギバの幼虫 コナラが大好きコナラシギゾウムシ
 

イロハモミジ
 
 イロハモミジといえば、秋の美しい紅葉が有名です。私たちのグループでは、センターゾーンの木を2年前から観察、撮影を始め、一年の変化を追ってきました。
 早春には、細い枝に向き合ってついた冬芽がふくらみ始め、芽吹き、小さな葉と赤い花が咲きだします。雌花の奥には、やがて種子になる透明のプロペラが見え、その後、春から夏を経て、葉の緑は濃くなり、種子もしっかり実ってきます。秋には、プロペラ型の種子ができあがり風に乗ってとばされていき、葉では紅葉が始まります。
 今回、その紅葉の仕組みを図を使って詳しく説明しました。こうして、一年の変化を詳しく見てみると、季節ごとのイロハモミジの特徴がわかり、また、次々と興味が深まり、有意義でした。
 
(担当:宮川郁子・木植洋子)
冬芽 芽吹き
 
若葉
 
プロペラ型の種子 紅葉
 

エゴノキ
 
 エゴノキは万葉の昔から親しまれ人々の生活と関わってきた。古くは、チシャノキ、チサノキと呼ばれ、万葉集にも登場する。
 5月ごろ扇状に小枝の先端に多数の白い花を下向きにつける。
 鈴なりになる実は、果皮に有毒なサポニンを多く含んでおり、洗濯の洗浄剤として用いたり魚の捕獲にも使われたこともあるという。
 エゴノキは北海道から九州・沖縄まで、日本全国の雑木林に多く見られる落葉小高木であり、最近は公園の樹木としてよく植えられる。
 和名の由来は、果実を口に入れると喉や舌を刺激して「えぐい(えごい)」ことにあるのではないかと植物学者の牧野富太郎は述べている。
 エゴノキの材質は白く緻密で粘りがあり、将棋の駒などの素材とする他、ろくろ細工に使われることからロクロギともいわれる。
 
(担当:今村貞堯)
新芽 虫コブ
 


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